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引き抜いた槍を構えるフロスト。
だがその構えは本来のランスの構えでなく、まさに投げ槍の構えであった。
もはや人から外れた膂力で投げられた撃竜槍は上昇中の黒翼の翼を突き破る。
翼膜に風穴を開けられた黒翼はバランスを崩し、土ぼこりをあげて大地へと激突するのであった。
フロストの追撃はまだ終わらない。
すかさず倒れた黒翼へ駆け寄ると、背中に刺さった鈴の天下無双刀を引き抜き、そして同じ傷口へ更に深々と突き刺した。
反撃をしようにも落下の衝撃ですぐに動く事のできない黒翼は苦悶の叫びをあげるだけであった。
その間もフロストは何度も何度も傷口を刺突し、そしてついに剣先は身体を穿ち大地へ切っ先を打ち付けたのだった。
獲物をなぶる歓喜にドラゴンSヘッドの顎はかちかちと音を起てて震え、突き刺したままの天下無双刀を使いテコの原理で更に傷口を押し広げる。
傷口からは噴水のように鮮血が吹き出しフロストの身体を赤く染め、その姿はまさに赤氷の異名を体現するものであった。
生命の危機に反してようやく体を持ち上げた黒翼はかつての勢いもなく、苦しみもがくようにしてフロストを振り払った。
「フーッ……フーッ……」
対してフロストの息遣いは疲労ではなく興奮によるもの。
血の香りが更に彼の攻撃性を助長させた。
だが、赤く染まったフロストの身体は黒翼の血だけで染まっているわけではなかった。
防具の内側からは止め処無く血が滲みでている。
人の身体で人外の動きをすればその身体は壊れてしまう。
火事場力状態で黒翼を圧倒したフロストだが、それも長くは持たない。
生存本能で立ち上がったはずの彼の心は既に闘争本能に飲まれていた。
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