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霧の晴れた誘導路には徐々にあの巨体が見え始めていた。
しかし、その姿は先ほどとは違った。
ガンナー達の射撃により砕かれた甲殻へ撃ち込まれた無数の拡散弾と区画の爆破によって吹き飛ばされた外殻は脆弱な赤い地肌を晒していた。
それでも尚ひたすらに前へと突き動かす四肢に力強さはなく、その生命も風前の灯火であるのは誰の目にも明らかであった。
それでも前へと歩む姿は黒き死への逃避そのもの。
人間が未だ打倒しえなかった存在の弱り切った姿がそこにあった。
同時に狩人としての本能が呟く。
「――手負いほど厄介なものはない」
引き抜いた龍刀を握る手に力が入る。
でもしなければ手の震えは止められなかっただろう。
晴れた霧はラオシャンロンの姿をはっきりと見せつけた。
大きな瞳に宿した敵意も。
今まで我々――矮小なものとして相手にもしなかった人間をラオシャンロンが排除すべき敵として認識した。
それがどれだけ恐ろしい事か、この世界の生きとし生けるもの全てが螺旋という記憶に刻まれ、理解していた。
その記憶が無意識の内に足を後退させた。
だがそれを気に留める者はいない。
群がる小虫達を睨みつけたかの様なラオシャンロンの視線を受け、皆正気を保つ事だけで精一杯だった。
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