エピローグⅢ

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 目標の視認を確認した砦から砲撃が開始される。 城門の上部左右に備え付けられた大砲、バリスタそれぞれ十数器が火を吹く。 発射された大砲は従来の射程の短い命中時の破壊力を重視したものではなく、外海を航海する大型の船舶に取り付けられる射程の長い型の大砲が使われており、従来の型ならラオシャンロンに届く事なく我々に着弾したであろうそれとは異なり、発射音と共に空を切り裂く悲鳴を上げながら曲線を描き頭上を駆け抜けた。 着弾した数十発の砲弾は淡い赤を映し、内部の炸薬を破裂させ、爆発と共に砲弾の破片をラオシャンロンの剥き出しの地肌へと撒き散らす。 続いて時間をずらし発射されたバリスタの弾丸は、無数の破片が突き刺さる地肌にそれより尚深く突き刺さる。 だが、雨の様に降り注ぐ砲撃に目も暮れず、ラオシャンロンは砦に向かい突進を始める。 それは飛竜の繰り出す突進とは比べものにもならない速度の、突進とは呼べるかもわからない前進。 だが、その巨大と質量は向けられるだけで驚異であり、何者にも止める術はなかった。 「チッ…逃げるぞ」 仲間達や周囲のハンター達へと呼びかける。 ラオシャンロンはゆっくりとした歩調だが、圧倒的な歩幅を持ち自分達とラオシャンロンを隔てる距離などあっという間に詰められるだろう。 巻き込まれれば命がどうなるかなど語るに及ばず、残される結果など一つしかなかった。 まして眼前に捉えるだけで歴戦のハンターが肝を冷やすほどの巨大と迫力を誇るラオシャンロンが殺意を秘めた瞳でこちらに向かってきているのだ、呼びかけるより前に戦意を喪失し尻尾を巻いて逃げるハンター達の姿もあった。 異を唱える者もなく、選り抜きの手練を集めたはずのハンター達は為す術もなく逃げ惑った。 「手を離すな!」 そう言って強くリーアの手を握り直した。 逃げる最中人波に揉まれで仲間達とは散り散りになってしまった。 だがリーアの手だけは決して離さない。 仲間達なら放って置いても心配こそするが無事であると信じている。 だがリーアだけは何としても手元に置きたかった。 本人は一人前と言うが、俺からすれば技術だけの半人前の馬鹿な弟子。 そんな彼女を放っておく事などできない。 俺は彼女の手を引いて突進ルート上から必死に逃亡した。
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