エピローグⅣ

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 深蒼の夜空には金色の満月が浮かんでいる。 思えば十年前のあの夜もこんな綺麗な満月のだった。 少し前まで指令部『であった』場所で俺はそう回想する。 眼前で屍を手当たり次第に喰う『それ』は、月明かりに照らされた漆黒の翼が一筋の光さえ残す事なく光を反射していた。 世の中とはなんと無情なものだろうとこれほど強く思った事はない。 実に十年も思いを馳せた相手だ。 それが漸く会えたというのに、背中を向けて一向にこちらに気付きもしない。 「全く…無神経過ぎるだろう…お前は」 そう嘆息を漏らすと、近くに転がっていた誰が着けていたであろう血の着いた中身のない兜を、思いきり投げつけた。 完全武装のハンターを防具ごと夢中でかぶりつくその背中に兜はぶつかり、カラカラと音を発てて地面に落ちた。 首だけ向けて振り返った『それ』はハンターを口にくわえ咀嚼したまま金色の瞳を俺に向ける。 「よお、久しぶりだな。会えて嬉しいぜ。いや…嬉しいんだが、なんだろう…そんなちっぽけな言葉じゃ言い表せない…」 俺の姿を確認した『それ』は後ろに向けていた首を一度戻し、身体を反転させ振り返る。 月を背にした『それ』は長大な翼で月をすっぽりと覆い隠すと、口にぶら下げていたハンターを噛み潰した。 「まぁ十年も待ったんだ…もう逃がさない」 口元が三日月に歪む。 何もかもが全て可笑しい。 笑いが止まらなかった。 そう、故郷を燃やし家族を喰い殺し友人を喰い殺し知人を喰い殺し、俺を殺しかけた敵が眼前にいる。 二十と四年の人生の中でこれほど可笑しい事はなかった。 そして俺を迎え入れるかの様に黒翼は咆哮を上げる。 それが俺には嬉しくてたまらなかった。 「来いってか?いいぜ、今すぐ殺してやるよ!」 龍刀を引き抜いた俺は黒翼に向かい大地を蹴り出した。
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