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同時刻 統京都1番区画 灰島統合病院 特別病棟
その一室のベッドの上、少女は夢から覚める。
瞼を擦りながら、ゆっくりと目を開く。
窓が開いているのだろう、少女の頬に優しく風が触れる。
「あら、起こしちゃった?」
突然掛けられた聞き慣れた声に、寝ぼけ眼で気持ち良い風に浸っていた少女は完全に目を覚ます。
少女のベッドを中心に一面真っ白の部屋、その中で綺麗な花を持った女性が立っていた。
「ミコトさん…」
そこに立っていたのは病院の看護士ではなく、どこかの企業の制服をきっちり身に纏った女性だった。
今やってきたばかりなのだろう、入口からこちらに向かってハニカみながら歩いて来る女性。
相変わらずな笑顔を見せる女性に、少女はその慣れ親しんだ名前を口にする。
「どう?調子は」
「全然、相変わらずだよ」
肩に掛かる程度のショート、その綺麗な髪が風でほんの少し揺れる。
やや細身でそれなりに身長がある為、バランスの良いスタイルである。と、少女は分析する。
「元気ならば、良し」
いつも明るい印象を受ける彼女は、少女にとってお姉さんの様な存在だった。
「綺麗な花だね」
少女が、ミコトの持つ花に気付く。
「あっ、そうだった。ハイ、ユリの花よ」
こうやっていつも少女の為に、様々な花を持ってお見舞いに来てくれる。
「ありがとう、ミコトさん。…でもお見舞いに来たのに渡す物忘れるなんて、忘れ物癖は相変わらずだね」
「人の揚げ足とらないの、もう。…じゃあ花瓶の水、取り替えてくるから」
そう言って鼻歌混じりで病室を出ていくミコトを見送ると、横に置いてあるユリの花を少女はじっと見つめる。
真っ白な中に咲く一輪の花、小さな色でしかないがそれでも大きな存在感。
「お前はいいね、こんなに綺麗な色をして」
花は、答えない…
「私も、お前みたいな色で生まれたかったな」
答えない…
「だって…」
…
「だって―――」
少女は、灰色だった。
髪も、瞳も――夢さえも、全てが灰色だった。
少女は自分の背中まである髪の毛を目の前に持ってくると、皮肉めいた笑顔で自分とユリの花に向かって呟く。
「まるでネズミみたいね」
窓から覗く、雲一つ太陽すらない人工の空。
まがい物だと知りながら、その何処までも続く蒼さに、儚い夢を馳せる。
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