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実家は大きく、木造のしっかりした造りで、母親が昔は金持ちだった事実を美久は知った。 不安で押し潰されそうな気持ちを奮い立たせて、美久は門に手をかけた。 玄関の呼び鈴のボタンを自動販売機のボタンを押す時の10倍ぐらいためらって、 押した。 奥行き8ミリほどの手応えとともに美久の緊張感に似つかわしくない、間抜けた『ピンポーン』という音が響いた。 しばらくの沈黙。 『はい?』 「―あのっ!………」 チャイムを押したは良いが、美久は何と言えばいいか分からなくなった。 そもそも、尚美は連絡を取っているのだろうか。 『もし?』 「………。」 何か言おうと懸命に努力したが、口がパクパク動くだけだった。 『…………』 「…………」 ブツリ。 接続が切れる音がスピーカーから出た。 美久は知らない土地でのこの状況に居ても立ってもいられなくなって、地面に置いていた鞄を持ち上げて行く先もないのに歩き出そうとした。 ガラッ 背後から戸を開けるのが聞こえた。 美久はヒュッと音をたてて息を飲んだ。 振り返ると、尚美をそのまま初老にしたような女が立っていた。 鼠色の無地の着物を着て、年の割にスラッと長身で上品な感じだ。白髪混じりの髪を後ろで結っている。 祖母は美久を見て驚いたように目を見開いた。 「あなたは………」 「…………。」 美久はどうする事もできず、ただ初めて見る、自分の祖母を見つめた。 「―――中へお入りなさい。」 祖母には美久の正体が自分の孫であるのが分かったようだった。 それだけ言うと、サッと身を翻して、廊下の奥へ消えてしまった。 美久は少し安堵しつつも、自由奔放な母親とは随分雰囲気が違う祖母になんとも言えぬ威圧感を感じ取っていた。 美久は門をくぐり、敷居を跨ぐと、 「失礼します。」 と小声で言って家に足を踏み入れるのだった。
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