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蛇行した山道を何時間もかけて進み、ようやく道がなだらかになった。 それにつれて、先程まで生い茂った木の葉で日光が遮られ、薄暗かった車内にも五月の暖かな日差しが差した。 開けた視界が目的地が近い事を知らせた。 車の窓を全開にして顔を出している美久(みく)は、車酔いからの解放が近い事を知りほっとした反面、村に到着してしまう事に対し、気分が沈んだ。 「美久。村の山桜が見えてきたよ。」 母親の尚美(なおみ)が平坦な調子で特に興味も無さそうに言った。 そこに桜があるから、仕方なく、義務的に言ったような冷たい調子だった。 美久は母親の顔を盗み見て、その顔が予測通り不機嫌なのを確認すると、その視線の先にある山の緑に浮き立つ桜色の霞みを見た。 美しいのどかで小さな村。 しかしこの帰郷は楽しいものではない。 尚美にとっても、 美久にとっても。 美久は母親に聞こえないように小さく溜め息を吐いた。
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