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鈍い機械音がして、運転席の窓が開いた。
「怒ってるよね。」
はぁ、と溜め息まじりに尚美が言った。
「許して。」
「怒ってないよ。」
「良かった。」
尚美はにっこりと微笑むと窓を閉めた。
車のエンジンがかけられる。
美久は鞄を両手で持って、一歩下がった。
エンジンの寂しげな低音が美久の心を冷たく満たした。
車はなんのためらいも無く発進し、
滑らかに右折して来た道を戻って行った。
美久は静かに母を見送った。
車が小さくなってゆき、曲がった山道で見えなくなった。
その瞬間、美久の頬に一粒の涙がつたった。
それが、尚美との最後の別れだった。
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