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慣れた手つきで使っていたガスコンロ、給湯器の元栓を閉める。
次いで窓鍵のチェックをする。
玄関にある大きな花束を私は抱え込んだ。
「いってきます」
部屋中に響きわたる私の声。でもこれが日課、私は部屋の鍵を取ると家を後にした。
「久遠ー!」
家の前の大路地に出た所で、同じ学校に通う奈穂にばったり会ってしまった。
「珍しいね?奈穂が学校遅刻なんて」
すでに一限目の予鈴時刻を過ぎていたことを分かっていた私は、学校など滅多に休まない元気少女に向かって一言かました。
「昨日、課題終わらなくて夜中まで起きてたら今さっき起きちゃってね」
あはは、と苦笑いして奈穂は軽く頬を掻いた。
「また作曲でもやってたのー?」
作曲が趣味の彼女は、よく時間を忘れて曲を作ることに夢中になることがある。
それに便乗して私はその曲に詞を付けていて、二人の曲としてのストックがたくさんあり、学校の場を借りてライブなどをするほど。
簡単に言ってしまえば、彼女は相棒と呼べるくらいの仲なのだ。
「ばれたー?早く新曲みんなに聞かせたくて」
「成績落ちないようにね?」
私は冗談混じりに言って奈穂に舌を出した。それを聞いて奈穂は少し頬を膨らますも、すぐに笑顔になった。
「了解!久遠も一緒に学校…」そう言いかけて奈穂は手に持っている花束に気づく。私は苦笑いすると菜穂は
「先行ってるから、学校で会おう?」
そう言い残して学校に続く道を歩いていった。
今日4月10日は両親と私の唯一の弟の命日。
学校はあるのだけどこの日限りは遅刻していくことにした。
制服を身にまとい、茶色い髪を風に靡かせて花束を持った女子高生。
振り向く人は振り返る、だけど私は気にしない。
大きな横断歩道の前で信号が変わるのを待つ。これを渡って右に曲がった所がみんなのいる霊園だ。
携帯を取り出し、時間を確認するために開く…が。
プップーッ!!
顔を上げたときにはもう遅かった。
私の視界に花びらが舞う。鞄が落ちる音、私はバランスを崩して倒れ込む。
耳が、きこえない
あ、痛い
私は今、どこにいるの?
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