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ひとには、二種類いると思う。
過去を糧にして生きる奴と、過去を捨てて生きる奴。
俺は、間違いなく前者だ。
好きなものは、この部屋にあふれている。そして、あの部屋にもあふれていた。
「…んだよ。少しは片付けろ」
うるせーな。プラモのひとつやふたつ…
出かけた言葉を、口のなかでころがし、俺は、こたつから起き上がった。作りかけのマシンを片しつつ、台所の背中をうかがう。
バイト先でもらったとかいう前かけをつけて、手際よく、飯を作る後ろ姿。
中途半端な髪は、ひとつにくくられている。
ああ…
なんだかとっても新婚サン
といっても、俺たちは、なんだかんだでもう5年のつきあいになる。
だけどもうすぐ、この暮らしは終わる。
「飯なにー?」
一時間も前から、おでんの香りが充満している1DK。
ここで、5年暮らしたんだ。
新しいまちでの、きままな一年。熱病みたいな半年。
ヒキコモゴモ、うぜえくらい、いろんなことがあった3年半。
ひと月後に控えた、やつの卒業式と同時に、俺らはココを卒業する。
俺は東へ。やつは南へ。
狭い島国、とはいっても、たかがちっぽけな人間ふたり。
二度と、会うことはないだろう。
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