進化トジョウにて

2/12
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
ひとには、二種類いると思う。 過去を糧にして生きる奴と、過去を捨てて生きる奴。 俺は、間違いなく前者だ。 好きなものは、この部屋にあふれている。そして、あの部屋にもあふれていた。 「…んだよ。少しは片付けろ」 うるせーな。プラモのひとつやふたつ… 出かけた言葉を、口のなかでころがし、俺は、こたつから起き上がった。作りかけのマシンを片しつつ、台所の背中をうかがう。 バイト先でもらったとかいう前かけをつけて、手際よく、飯を作る後ろ姿。 中途半端な髪は、ひとつにくくられている。 ああ… なんだかとっても新婚サン といっても、俺たちは、なんだかんだでもう5年のつきあいになる。 だけどもうすぐ、この暮らしは終わる。 「飯なにー?」 一時間も前から、おでんの香りが充満している1DK。 ここで、5年暮らしたんだ。 新しいまちでの、きままな一年。熱病みたいな半年。 ヒキコモゴモ、うぜえくらい、いろんなことがあった3年半。 ひと月後に控えた、やつの卒業式と同時に、俺らはココを卒業する。 俺は東へ。やつは南へ。 狭い島国、とはいっても、たかがちっぽけな人間ふたり。 二度と、会うことはないだろう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!