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直江はかごを乗せたカートを押しながら、ゆっくりと歩いていた。前を歩く高耶が、冷蔵ケースを覗き込みながら、選んだ食材を後ろも見ずにかごに放り込む。自分の手を当てにしてのその無造作な仕草に、微苦笑混じりにそれを整頓して入れ直しながら、直江は周りを見回した。
まだ長袖には暑く感じるこの日曜日、空調の涼しいスーパーマーケットは、かごやカートを手にした買い物客でにぎわっている。毎週一緒に訪れる高耶と直江も、すっかりお馴染みの顔となり、楽しげに行き交う家族連れの中に、自然に溶け込んでいた。
生鮮食品を一通り見終えた高耶が、あっと振り返り、直江を見上げた。
「なあ、まだアイスあった?」
冷凍庫の中身を思い出し、直江が首を振る。
「いいえ。確か、さっき出る前にあなたが食べたので最後でしたよ」
「じゃあ買って帰ろう。まだ暑いしさ。おまえも食うだろ?」
直江がいいですねと頷くと、高耶は嬉しそうに笑って直江の手からカートを取り、
「んじゃ早く、直江!」
急かすように促した。それに直江は溶けるような優しい笑みを浮かべ、
「はいはい」
後について歩き出した。
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