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「………行くか」
感傷にひたるのと、花を眺めるのをやめ、少年は公園を背に歩き出した……のだが。
歩きだした次の瞬間に、陽は走り出した。
いや、走りだしたというより、それは全力の疾走だ。短距離走の様な、一気に全力を振り絞る走り方。
陽の表情には、焦りと驚きが張り付いている。何故、彼はこのような表情でいきなり走りだしたのか?それは彼の目の前の光景を見れば、一目瞭然だった。
横断歩道の真ん中辺りには制服を着た、中学生くらいの女の子が歩いていた。女の子の手には携帯が開いたまま握られており、それをいじりながら歩いていたのだろう。
歩行者信号の色は赤。
女の子のすぐ横には車が迫っている。運転手も慌ててブレーキを踏むが既に遅く、車はその速度を殆ど保ったままだ。
陽と少女との距離は約50m。対して、少女と車との距離はたったの3m弱。陽が車より早く少女の元にたどり着くことは不可能に思えた。
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