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「雪絵ちゃんは?」
「どうだろうね」
「……相手が違うからさ、いろんな形があっていいんじゃない。同じように違う人物を愛するのは難しいと思う」
「そっか…そうだね」
寂しそうに笑う彼女の顔を見つめて、また胸が痛んだ。
心の中にあるのは、なんだろう。
忘れられないやつでもいるんだろうか。
でも、雪絵ちゃんは未経験だった。
片想いか…?
「胸が押し潰れそうになることは、あった気がする」
「怜みたいに、強い人でもあるんだね」
「強い?俺が?」
「うん。……怜は強いよ、とても」
だって過去は、怜にとって意味を成さないんでしょ、と彼女は言う。
「うん。俺にとって大事なのは、今」
彼女は、ふふ、と笑った。
「いいなぁ、あたしも、強くなりたい。怜みたいに」
儚く笑う彼女を、ふいに抱き締めたくなった。
「俺、雪絵ちゃんに会って、強くなった気がする」
「どうして」
「………俺にとっては、大切なのは、今。その今に雪絵ちゃんがいることが嬉しいから」
ありがとう、すごい嬉しいよ、と言う彼女の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
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