びいどろ

3/6
前へ
/88ページ
次へ
「どうぞ」 初めて入る、彼女の部屋。 入って俺はびっくりした。 一面、青だった。 青いベッド、青いカーテン、青い小瓶たち、青のポプリ、青いランプ。総てが、ブルーで埋め尽くされている。 「青い」 俺は呟いた。 彼女は、少し深い青が好きなの、と言って笑った。 彼女の笑い方は儚く、今にも消えてしまいそうだった。 この青の中に、何がいるんだろう。 彼女の心の中に巣食う、哀しみの悪魔がいるの? 「これじゃあ、寂しくなるよ」 俺は呟いた。 「青は、人の感情をマイナスにするんだよ」 彼女は大きい瞳を潤ませて、俺を見た。 「そうなんだ」 彼女はそう言うと、目を伏せた。 俺は心の奥に、何か… ちくり、と針で刺されたような心持ちになって、彼女の痛みや哀しみのうち、少しでも俺にくれないだろうか、と思ってみたりする。 「雪絵ちゃんの何が、そうさせるの」 俺が訊ねると、彼女は 「分からない」 そう言って薄いブルーのカバーが掛かったベッドに腰かける。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6307人が本棚に入れています
本棚に追加