二章「天上院吹雪」

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二章「天上院吹雪」

5月になる。 しとしとと雨が降っていた。 天上院吹雪が行方不明になってから一ヶ月。 あたしはゲンナリとした日々を送っていた。 「はぁ……」 大きなため息をついて、あたしは机に突っ伏す。 密かに隠し撮りした吹雪さんの写真をじっと見つめるあたし。 「……ファンクラブの連中と変わんないな、あたしも……」 そこへ周子が部屋に戻ってくる。 「お姉ちゃん……講義くらい出ないとダメだよ。」 物覚えは悪いくせになかなかのお節介な妹である。 「ヤダ……あたしクロノス嫌い…」 「そんなこと言っちゃダメ。ほら、補習の連絡プリント。 明日の7時までに教室に来いって。 PDAにも連絡入っているでしょ?」 PDAというのは、アカデミアの生徒や教員同士でメールのやり取りなどが出来る小型の機械だ。 パーソナル・デュエル・アカデミアという意味(らしい)。 あたしは嫌な予感がしつつも、メール画面を開いた。 『エー、イシハーラ ノリーコさーん。 イシハーラ ノリーコさーん。 明日の7時までーに、教室に来るノーネ。』 聞きなれたクロノス教諭独特の音声が響き渡る。 「う……やっぱこの先生苦手だわ…… てか7時ってめちゃ早起きじゃん! なんでそんな時間に行かなきゃなんないのよー!」 「それは授業をさぼっているお姉ちゃんが悪いよ…… あ、そうそう。転校生が来るって。」 転校生? と聞くと、カッコいい男性を思い浮かべてしまうのは学生のサガだろう。 「ふーん……どんな人なの?」 「職員室でちょっとだけ見たよ。 赤い帽子を目深に被ってて、はっきりと顔は見えなかったけど。 オシリスレッドだって。」 「オシリスかぁ……まぁ転校生じゃしょうがないよね。」 オシリスレッドは、デュエルアカデミアの中でも 最下層のクラスと呼ばれている。 次にラーイエロー、オベリスクブルーと来るわけだ。 基本的に途中入学の男子生徒は、まずオシリスレッドに配属される。 そこで実力を計り、然る後に上位のクラスに転移するのである。 「ま……気分転換に行ってみっかなぁ。 その転校生とやらもちょっとだけ興味あるしね。」 ・・・
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