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五章「吉澤由美」
近頃、妙な噂が流れている。
デッキに入れていたカードがいつの間にか無くなってしまうというものだ。
ただ単に抜いてそのまま忘れてしまった、というレベルではない。
中には5,6枚ゴッソリ抜き取れてる生徒もおり、
ちょっとした泥棒騒ぎになっていた。
「あたしのカードはまだ大丈夫みたい……」
デッキはバラしてちゃんと40枚あることを確認した。
氷帝メビウスが取られでもしたら、あたしは発狂するかもしれない。
しかし、周子のほうはそうはいかなかったようだ。
「なんで……私のホルスの黒炎竜が。」
ホルスの黒炎竜は周子がカードゲームを始めたころから長い間、相棒として使っているカードだ。
そのカードたちが3枚とも消滅している。
周子がいくらボ~っとしてるからって、手放すことは絶対に無い。
あたしたちは手分けしてカードケースをひっくり返して探してみたが、
やはり見つからない。
「周子……もう時間。学校行こう……。」
「うん……」
いつ無くなったのだろうか。
あたしたちは昨夜までデュエルしていたのだ。
そうなると、夜中のうちに何者かが侵入しているとしか考えられない。
乙女の寝室に忍び込むなんでて、まぁいやらしい。
絶対に見つけだす!
・・・
学園に入る生徒たちの表情はどこか暗い。
やはりこの騒ぎが関係しているのだろう……
と、そこへ急に誰かが声をかけてくる。
「むふ、ちょっといい?法子。」
話しかけてきたのは、アカデミア中等部の頃からの先輩、
吉澤由美先輩(彼氏アリ)だった。
凛々しくて、デュエルも強い。
あたしのデュエルの基本は先輩から教わったのだ。
だがしゃべるときに、何故かむふっという言葉をつける癖があるのだ、
妙と言えば妙かもしれない。
「先輩は無事ですか?」
「私は平気。むふ。
でも法子たちがちょっと心配で。」
その言葉に周子の顔がより暗くなる。
「はい……。
あたしは大丈夫です。でも周子が……」
「周子のカードが?
ゴメン……」
「い、いえ。また……集めればいいですし……」
集めるといっても、ホルスの黒炎竜はレアなシリーズで、そう簡単には集まらない。
いつもよりもずっと弱気な周子の態度に、
あたしはミノタウルスばりに激昂した。
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