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しばらく俯いていた良次は、やがて大きなため息をついた。
「よかった~~~」
そう言って良次は顔を上げた。
「俺、失礼な事して嫌われたのかと思ってたよ」
良次の顔は心からの安堵のためか締まりがない。そんな良次を見て、初めはポカンとしていた実梨だか、次第に表情が崩れてきた。
「ふっ、あははっ」
実梨は口に手を当てて笑い出した。実梨が笑ったことに驚いて、良次は目を丸くした。
「えっと…何で笑ってるのかな?」
良次は恐る恐る聞いてみた。しかし実梨は、よほどおかしかったのか笑いが止まらないようだ。しばらくして、ようやく笑いが収まった実梨は、深呼吸して口を開いた。
「だって、橘君って変なんだもん」
「変って…」
いきなり『変』呼ばわりされた良次は、先ほどの実梨のような落ち込んだ表情になった。
「だってそうでしょう? 橘君は何も悪いことしてないのに、あそこまでホッとするほど気にしてたなんて…変って言う以外何て言えばいいの?」
実梨の言葉に反論も浮かばず、良次は複雑な表情で実梨を見ていた。
「まあ、そう思わせるような態度をとってた私も悪いけどね」
実梨はそう言って、まだ座り込んだままの良次に右手を差し出した。
「ほら、帰るよ」
実梨はそう言って微笑んだ。良次は実梨と、差し出された右手を交互に見ていたが、やがて実梨の手を握るとそのまま実梨が腕を引っ張るタイミングで立ち上がった。
二人の間にあった距離が一気に縮まった瞬間、良次は自分の胸が高鳴ったのがわかった。
「何してるの? 早く帰ろう」
まだ立ち止まったままの良次を振り返って、実梨が手招きした。その顔には、案内してくれたときの無愛想さは微塵も感じられなかった。
「あ、ああ」
できる限り冷静を装って、良次は再び歩き出した。
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