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それから二人は他愛のない話をした。家族のこと、これから行われる文化祭や体育祭のこと。そうしている間に、二人は実梨の家の前に到着した。
「送ってくれてありがとう。また明日学校でね」
実梨はそう言って家の門に手をかけた。
「あ、楠木さん」
良次に呼び止められて、実梨は振り向いた。しかし良次は、頭をガシガシと掻くだけでなかなか要件を口にしない。
「何?」
実梨が促すように聞く。良次は実梨を見て、照れたように笑った。
「案内ありがとう。…明日からよろしく」
そう言った良次に、実梨も微笑んだ。
「私こそよろしくね。おやすみなさい」
そう言い残して、実梨は今度こそ家の中に入った。
実梨が入るのを見届けて、良次も自分のマンションに帰るべく歩き出した。
良次の頭の中で、実梨の微笑んだ顔と声が何度も浮かんだ。
「参ったなぁ…」
すっかり暗くなった道を歩きながら、良次はポツリと呟いた。
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