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「昨日は案内できなくてごめんな」
吉井はそう言いながら、面接室のドアを後ろ手に閉めた。中にいた良次は首を横に振った。
「いえ。俺こそ忙しいときにすいませんでした」
良次の言葉に吉井は微笑んだ。
「気にする事はないよ。どうだ? うちの学校の印象は?」
吉井は良次の向かい側の椅子に腰掛けた。良次は吉井の動きを目で追いながら、素直に思ったことを口にした。
「綺麗で設備も整ってて、とても過ごしやすそうな所だと思いました」
吉井は満足そうに頷いた。
「うちの学校長は綺麗好きだからなぁ。その分、清掃だけは徹底するように言われてるから掃除が大変だぞ」
それを聞いて良次が笑うと、吉井もつられて笑顔になった。
「楠木の案内はわかりやすかったか?」
突然出てきた『楠木』という言葉に、良次は内心ドキッとした。
「はい、丁寧に案内してもらいました」
動揺を悟られないようにできる限り落ち着いて答えると、吉井は腕を組んでウンウンと頷いた。
「それは良かった。楠木は真面目な子だから、やっぱり任せて正解だったな」
その言葉に、良次は目の前の吉井をジッと見た。
(そういえば、吉井先生が楠木さんに案内を頼んだんだっけ?)
吉井が実梨に案内を頼んだおかげで、良次は実梨と一番に知り合うことができた。それが特別なことのように思えて、良次は嬉しくなった。
(もし転校した後だったら、楠木さんとあんな風に話せなかったよな。吉井先生ありがとう!!)
「ん、どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」
良次がニヤニヤしているのを見て、吉井は自分の顔をさすった。
「へ? あっ、何でも無いですよ! 何でも」
我に帰った良次は慌てて手を振った。
「そうか? まあいいか。…よし、それじゃあ教室に行くぞ」
腕にはめた時計を見て吉井は立ち上がった。
「はい!」
期待と緊張で、良次の鼓動は速くなった。
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