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暑かった夏も過ぎ、季節が本格的に秋へと向かい始めた九月中旬のこの時期は、学生達にとっては体育祭や文化祭などの学校行事の準備を始める時期である。そのため、クラス委員長の楠木実梨(くすのきみのり)は、学校行事の打ち合わせで連日のように居残りさせられていた。
実梨は部活動には入っていないため残されても特に不都合は無いのだが、毎日遅くまで帰れないとさすがに息が詰まりそうになる。しかも、今日は臨時の職員会議のため打ち合わせも無くなり、授業が終わったらすぐに下校できるはずだった。それにも関わらず、誰もいない教室に一人居残っているのは、担任の吉井に仕事を頼まれたからだ。
「楠木、ちょっといいか?」
帰りのホームルームも終わり、友達と帰ろうとしていた実梨は吉井に呼び止められた。何事だろうと思って吉井の側に行くと、吉井は用件を口にした。
「実は、明日うちのクラスに転校生が来るんだ。その転校生が前々から、校内を見学したいって言ってたから、今日案内するって約束してたんだけど…職員会議が入っちゃっただろ? 今更断れないし、悪いけど楠木が案内してやってくれないか?」
久しぶりに早く帰れると思っていた実梨にとって、あまり乗り気がしない話だった。しかし、吉井が「この通りだ」と顔の前で手を合わせてお願いしている姿を見て、実梨は少し考え込んだ。
(特に用事も無いし…委員長だから仕方ないよね)
内心でため息をついたが、実梨は承諾することにした。
「わかりました」
実梨の言葉を聞いて、吉井は心から安堵した表情になった。
「ありがとう、本当に助かったよ」
そう言って、吉井は持っていたファイルの中から一枚の紙を取り出した。
「転校生のことが書いてあるから、これを読んで会話の参考にしてくれ」
吉井に差し出された紙を受け取ると、吉井は「それじゃよろしく」と言って教室を去った。
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