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練習も終わり、先輩への挨拶も済ませた良次は武と並んで歩き出した。
良次は目線を上に向けた。実梨が残っていた教室の明かりは既に消えている。わずかに残っていた期待も消え、良次は溜め息をついた。
「疲れたか?」
良次の溜め息を疲れからと感じたらしく、武は良次の顔を覗き込んだ。良次は首を横に振って否定すると、心配をかけないように笑顔を見せた。
「大丈夫さ。体力には自信あるからな」
「そうか」
良次の笑顔に安心したのか、武も微笑んだ。
(口数は少ないけど、ジョーっていいやつだな。ジョーとはうまくやっていける気がする)
正門を出たところで、良次は正面の道路を指差した。
「俺はこっちだけど、ジョーは?」
武は左側の道路を指差した。
「俺は向こうだ。バス通学だからな」
「そうか。それじゃあここまでだな」
良次はもう少し武と話がしたいと思ったが、方向が違うのはどうしようもない。良次は武に向かって軽く手を上げた。
「お疲れ様。また明日な」
武も同じように手を上げると、「またな」と言って歩き出した。武の後ろ姿を少しだけ見送って、良次も自分の帰路についた。
(とりあえず、転校初日としてはまあまあだったかな?)
歩きながら、良次は今日一日を振り返っていた。一部とはいえ、クラスメートとの交流は持てたし、武という友人もできた。それは良かったのだが、良次には一つだけ心残りがあった。
(…明日は、楠木さんと話できるかな?)
実梨と話せなかったのは残念だったが、いつまでも気にしてはいられない。良次は思いっきり背伸びをした。
「あ~あ、明日はもっと頑張らないと…ん?」
暗くなり、街灯が照らす帰り道。その前方に人影が見えて、良次は思わず凝視した。
見覚えのある後ろ姿。良次は自然と駆け出していた。
「楠木さん!!」
良次の声に気付き、実梨はゆっくりと振り向いた。
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