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突然名前を呼ばれ、実梨は後ろを振り向いた。声の主は良次だった。
「橘君? どうしたの?」
慌てて自分に向かって駆けてくる良次を見て、実梨は目を丸くした。
良次は実梨の目の前までたどり着くと、膝に手をつきながら呼吸を整えた。
「…よかった、…やっと話ができた」
そう言って顔を上げた良次は、満面の笑顔で言葉を続けた。
「昨日はありがとう。それと、これからよろしく。…本当はもっと早く言いたかったんだけど、タイミングが合わなくてさ」
良次の言葉に、実梨はポカンとした顔で口を開いた。
「…それだけ言うために、わざわざ走ってきたの?」
「え? …あ、うん。楠木さんの後ろ姿が見えたから」
良次の言葉に、実梨の目はますます丸くなった。
「…ふふっ」
実梨は口元を押さえて、クスクスと笑いだした。良次は笑っている実梨に何を言えばいいのかわからず、頭をガシガシと掻いた。
「…俺、また何か変なことしたのかな?」
呟くように言った言葉に実梨は頷いた。
「それくらい、明日でもいいのに。私は気にしないよ?」
実梨に真っ直ぐに見られて、良次は恥ずかしさから視線をさ迷わせた。
「いや、どうしても今日言っておきたかったんだ」
「ふ~ん。橘君って結構真面目なんだね」
実梨は歩き出した。その横に並ぶように、良次も歩き出した。
「…迷惑だったかな?」
良次は心配になって尋ねたが、実梨はブンブンと首を横に振って口を開いた。
「大丈夫。ありがとう。それと、こちらこそよろしくね」
そう言って笑う実梨を見て、良次の顔が赤くなった。実梨はそんな良次の様子に気付かない。
二人はそのまま他愛の無い話をしながら、暗い夜道を並んで歩いた。
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