学校

13/15
前へ
/452ページ
次へ
 突然名前を呼ばれ、実梨は後ろを振り向いた。声の主は良次だった。 「橘君? どうしたの?」  慌てて自分に向かって駆けてくる良次を見て、実梨は目を丸くした。  良次は実梨の目の前までたどり着くと、膝に手をつきながら呼吸を整えた。 「…よかった、…やっと話ができた」  そう言って顔を上げた良次は、満面の笑顔で言葉を続けた。 「昨日はありがとう。それと、これからよろしく。…本当はもっと早く言いたかったんだけど、タイミングが合わなくてさ」  良次の言葉に、実梨はポカンとした顔で口を開いた。 「…それだけ言うために、わざわざ走ってきたの?」 「え? …あ、うん。楠木さんの後ろ姿が見えたから」  良次の言葉に、実梨の目はますます丸くなった。 「…ふふっ」  実梨は口元を押さえて、クスクスと笑いだした。良次は笑っている実梨に何を言えばいいのかわからず、頭をガシガシと掻いた。 「…俺、また何か変なことしたのかな?」  呟くように言った言葉に実梨は頷いた。 「それくらい、明日でもいいのに。私は気にしないよ?」  実梨に真っ直ぐに見られて、良次は恥ずかしさから視線をさ迷わせた。 「いや、どうしても今日言っておきたかったんだ」 「ふ~ん。橘君って結構真面目なんだね」  実梨は歩き出した。その横に並ぶように、良次も歩き出した。 「…迷惑だったかな?」  良次は心配になって尋ねたが、実梨はブンブンと首を横に振って口を開いた。 「大丈夫。ありがとう。それと、こちらこそよろしくね」  そう言って笑う実梨を見て、良次の顔が赤くなった。実梨はそんな良次の様子に気付かない。  二人はそのまま他愛の無い話をしながら、暗い夜道を並んで歩いた。
/452ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加