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良次に家の前まで送ってもらい、実梨は家の中に入った。
「ただいま~」
リビングへ続くドアを開けると、母親の麻実(あさみ)が紅茶を片手にソファーに座ってくつろいでいた。
「お帰りなさい。今日も遅かったわね」
麻実は紅茶のカップをテーブルの上に置いて立ち上がった。
「ご飯、温めればすぐだけど。先にお風呂にする?」
麻実に聞かれて、実梨は少し考えた。
「お風呂にしようかな? 今日体育で汗かいちゃったし。お母さんはお腹空いてない?」
実梨の言葉に麻実は親指と人差し指で丸を作って見せた。
「作りながらつまんでたからもう少し平気よ」
「それなら、先にお風呂にするね。制服かけたらすぐに入るよ」
実梨は制服のリボンを外しながら、先程入ってきたドアに向かって歩き出そうとした。
「その前に、ちょっと聞いていい?」
麻実の言葉に実梨の足が止まった。
「何?」
実梨が振り向くと、麻実はニコニコしながら口を開いた。
「あの男の子、昨日も送ってもらってたけど…ひょっとして実梨の彼氏?」
麻実の言葉に実梨の顔が一気に赤くなった。
「き、気付いてたの!?」
「だって、珍しく男の子の声が聞こえてきたんだもん。気になっちゃったからつい覗いちゃった」
「覗いちゃったって…」
実梨は開いた口が塞がらなかった。そんな実梨の顔を覗き込みながら、麻実はもう一度聞いた。
「で? どうなの?」
実梨はため息をつくと口を開いた。
「橘君はそんなんじゃないよ。たまたま方向が同じで、たまたま帰りの時間が同じだったから送ってくれたの。それだけだから」
実梨の言葉に、麻実は期待が外れてガッカリした表情になった。
「残念、実梨に彼氏ができたのかとおもってワクワクしてたのに」
「もう、お風呂行ってくる!」
実梨は逃げるようにリビングを出ていった。バタンと閉められたドアを見ながら、麻実は小さく笑った。
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