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湯船に浸かりながら、実梨は先程の麻実とのやりとりを思い返した。
(お母さんったら、からかわないでよ!)
雑念を振り払うように、実梨は湯船のお湯を両手ですくうとバシャリと顔にかけた。
「…橘君はそんなんじゃないよ…」
ポツリと呟いた言葉が浴室に響いた。
確かに、実梨にとって良次は特殊な存在だった。男の子が苦手な実梨にとって、まともに話せるのは今のところ良次しかいない。良次は他の男子生徒と違って、実梨を怖がったり避けたりしない。昨日の案内であんな態度をとったにも関わらず自然に接してくれる良次に対して、実梨が好感を持っているのは事実だった。
しかし、それはあくまでもクラスメートとしてである。これが恋愛感情かどうかを問われたら、はっきりと「NO」と言える自信が実梨にはあった。
(大体、橘君とは昨日知り合ったばかりなのに。そんなすぐに好きとか付き合うとか、絶対に有り得ないよ)
考えているだけで、実梨の頭はどんどん混乱していく。今まで感じたことの無い不快感に、実梨は段々イライラしてきた。
「もう、考えるだけ無駄! 止めよう!」
勢い良く浴槽から立ち上がり、実梨は浴室から出ていった。
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