転校生

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 入学してから半年近く経ち、学校生活にもすっかり慣れたこの時期に、親の転勤のために転校しなければならなくなった。良次は転校に反対で、何度も「残って一人暮らしをする!」と言っていたのだが、両親に「料理も掃除もまともにやってなかったやつがなにを言うか!」と言われてしまっては何も言えなくなってしまった。  転校の手続きの際に、自分の担任だという吉井に対して校内見学を頼み込んだのは、一日でも早く新しい学校に馴染まなきゃいけないという焦りからだった。しかし意外にも、吉井は良次の頼みを快諾してくれた。それだけでなく、「焦ることはないからな」と言ってくれた吉井に対して、良次は好感を持った。  そして転校前日の今日、良次は校内を見学するために学校を訪れた。校舎に入り、事務員のいる窓口を覗き込んだ良次は、近くにいた女の事務員に話しかけた。 「すいません。橘ですが、吉井先生を呼んでいただけませんか?」  事務員の女性は「少々お待ちください」と言って、中にいる他の事務員に話かけた。メモのような紙を見て、何かを確認した事務員は良次のところに戻ってきた。 「申し訳ありませんが、吉井先生は臨時の職員会議のために来られなくなりました。吉井先生の代わりにクラス委員長の子が案内をしてくれるそうです」  吉井と話すのを楽しみにしていた良次はがっかりした。しかし、クラスの子と先に交流をもっておくのも悪くないと思い、事務員に教えてもらった教室に向かいながら、これから会うクラス委員長について考えていた。 (どんなやつかな? 委員長ってことは、頭が良いかもしれないな)  良次はあれこれ想像を膨らましていた。人見知りをするタイプではない良次は、一番最初に出会うクラスメートに対して期待に胸を踊らせていた。しかし、前の学校の委員長が男だったこともあり、相手が女の子かもしれないというところまで考えは及ばなかった。
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