転校生

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 三階にある1-Bの教室が明日からの良次の教室らしい。そこでクラス委員長が待っている。三階にやってきた良次は、1-Bと書かれている教室を探した。しばらく廊下を歩いて目的の教室を見つけた良次は、ドアの前に立つと深呼吸をして緊張で興奮した心を落ち着かせた。  ドアに手をかけた良次は、もう一度深呼吸をすると一気にドアを開けた。 「失礼します、転校生の橘です」  良次の視界に飛び込んできたのは、夕焼けで赤くなった太陽の光だった。思わず目を細めた良次の先に、太陽を背に一人の女の子が立っていた。女の子が良次に気づいて振り向くと、栗色のセミロングの髪がふわりと揺れた。 (誰…?)  予想もしなかった光景に圧倒されて、良次はその場から動けなくなっていた。そんな良次に向かって女の子が近づいてきた。 「はじめまして。クラス委員長の楠木実梨です」 「あっ、橘良次です…はじめまして」  表情を崩すことなく、真顔で名乗った実梨に良次は慌てて挨拶を返した。 「吉井先生の代理で校内を案内させていただきます。よろしくお願いします」  そう言って実梨はお辞儀をした。一方良次は、実梨の事務的な態度にどうしたらいいのかわからず、ただオウム返しのように「よろしくお願いします」と言うしかなかった。  そんな良次に背を向けて、実梨は再び教室に入ってしまった。不思議に思って見ていると、実梨は窓際の机に置いてあった紙を手に取った。実梨はその場で耳に手を掛けるような動作をした。後ろ姿しか見えない良次には実梨が何をしているのかわからない。やがて振り向いた実梨を見て、良次は驚いた。 「あれ、眼鏡?」  良次が思わず口にした言葉に、実梨は明らかに顔をしかめた。 (しまった…)  そう後悔した良次の横を実梨は何も言わずに通り過ぎた。気まずい空気の中、良次は実梨の後ろについて行った。
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