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笑顔を見せることなく、必要以上に会話をしようとしない実梨の後ろを、良次は黙って歩いていた。
(さっきの…やっぱりまずかったかな…?)
良次は、実梨が素っ気ないのは先ほどの言葉が原因なのではないかと思った。
良次は視力が良いから眼鏡を必要としない上、家族を始め周囲に眼鏡を使用していた人はほとんどいなかった。たとえ視力が悪くても、コンタクトレンズを使用している人ばかりだ。だから、実梨が眼鏡を使っているのが珍しいと思ったのは事実だった。
しかし、良次が眼鏡に過剰に反応した理由はそれだけではない。良次の頭の中…教室のドアを開けた時の、あの一瞬の光景が焼きついて離れなかった。
部活や友達と一緒にいるのが楽しくて、良次は今まで女の子に対して強い思い入れなどしたことが無かった。その良次が、夕日に照らされた実梨を見て、心の底から綺麗だと思った。短い挨拶の間に見た実梨の瞳を綺麗だと思った。眼鏡を掛けた実梨を見て、良次は実梨の瞳が眼鏡に隠されてしまった気がした。それがとても残念だった。
「何で眼鏡なの?」
良次は聞かずにはいられなくなり、恐る恐る実梨に尋ねた。すると実梨は立ち止まり、振り向いて良次を見た。その顔には明らかに不快感が滲み出ている。
「えっと…ほら、俺達の年代だとコンタクトがほとんどだろ? なのに何で眼鏡なのかなって思って」
実梨は視線を落とすと、再び前を向いた。
「別に理由なんてありません。眼鏡でも物が見えれば十分ですから」
そう言って実梨は歩き出した。
(ダメだ…絶対嫌われてる…)
またしても素っ気ない実梨の態度に、良次は心の中でため息をついた。
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