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良次の言葉に、実梨は自分の耳を疑った。
返答しかねている実梨を見て、良次は「危ないからさ」と言葉を付け加えた。
聞くところによると、どうやら家の方向は同じらしい。断る理由は無かった。
「それじゃあ…お願いします」
できるだけ冷静を保ちながら、実梨は軽く頭を下げた。
教室に荷物を取りに行った実梨を、良次は正門で待っていた。待っている間に、良次はだんだんと自分の行動を後悔し始めた。
急に穏やかになった実梨に、良次は思わず送ると言ってしまった。それには案内してくれたお礼もあったのだが、よくよく思い出すと、見学中の実梨はとても不機嫌そうで素っ気なかった。あの重苦しい空気の中で帰るのかと思うと、自分はとんでもない過ちを犯してしまったのではないかと思ってしまう。
(やっぱりやめとけばよかったかな? …でも、今更断れないし…)
良次はあれこれと悩んでいた。
「…くん、橘君!!」
「はいっ!?」
良次は実梨の声に驚いて姿勢を正した。そんな良次の様子を不思議に思って、実梨は良次の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
突然近くなった実梨の顔に、良次の心臓は跳ねた。
「なっ、何でもないよ。行こうか」
悟られないように良次は歩き出した。実梨はコクリと頷いて、良次の右側に並んで歩き出した。
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