~緑の章~

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 そう言って村人達に背を向け一歩踏み出したら、馬のいななきが聞こえて来た。  緑の君が、歩を止める。すると、森の中より真っ白な美しい馬が一頭駆けて来て、緑の君の前で止まった。  これは緑の君の愛馬で、名はネオステ。  緑の殿が、わざわざ迎えに来てくれたネオステの首を撫でている。 「殿の馬?」 「ああ。ネオステだ」 「綺麗なお馬さん」 「そうか。迎えに来てくれたのか。有り難う」  ネオステの首を撫でながら、緑の君が小さな声でそう言った。そして、重くなった身体を馬上に乗せ、エリーに手を伸べた。これで、エリーも馬上の人である。 「別れは良いのか」 「え? あ…。父さん、母さん、ジョー! 元気でね! さようなら!」  エリーは、晴れやかな表情で大きく手を振った。 「ハイヨー」  森の神とエリーを乗せた馬は、風のように森の中へと運び、あっと言う間に姿が見えなくなった。 「エリー…エルンスト! お父さんっ」 「これで良いんだよ。何より、あの二人は祝言を上げたんだ。夫々を別々には出来んだろう」 「でも、エリーは人間です」 「解決したようだよ。森の神は嘘は吐かない。守って下さるとおっしゃった。あの子は幸せになれる」  ポツンッと呟いた村長の言葉。  アルフレッドさんが森の神だった事に驚き、その姿の美々しさに凍り付いていた村人が、脱力してその場に座り込んでしまった。が、ユーラだけは小さく呟き、反対に立ち上がった。 「………だから、魔法使いさんの殿だったのか…くっすん。さて、泣いていらんない。ねっ、赤ちゃん。お母さん、強くなるからね」 「………赤ちゃんだぁ!」 「ユーラ、赤ん坊って誰の」  ユーラの家族が慌てふためいた。 「誰って決まってるじゃない。魔法使いさんよ。お嫁に行くとも言ったわ」 「なななななっっ」 「娘さん」 「え?」  ユーラの爆弾発言で、回りが浮足立った。そんな中に在り、一人冷静だった、新赤の谷殿クールがユーラに声を掛けた。 「もし宜しければ、赤の谷にいらして下さい。お師匠の遺品もありますし」 「いいえ。大丈夫です。あの人、私に赤ちゃん残してくれたから」 「強い人だ。お師匠が惚れたの解る気がします。困った事があれば何でも相談して下さい。私に出来る事なら力になります。胸の中で私の名を唱えるだけで良いので」
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