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「ん? ん。そうだな。これでそなたは、野営しなくてはならんな」
「ぇ?」
「そのように、村で決められているのではないか?」
「はい……そうですっ。森の中で雨に降られたら、なるべく動かず、風と雨をやり過ごせとっ、雨は森の道を消すから下手に動くと出られなくなるとっ、動かずに祈っていれば必ず森の神が守ってくれるとっ」
「ふふふ」
そろそろ帰らなければならないと・と、心が重く感じられた時、いきなり雨が降って来た。これぞ、恵みの雨である。
エリーは、言いつつ森の王にきつくしがみつき、ふっと顔を上げた。
「殿は?」
「そなたと居たい」
「っっ殿っっ」
くうっときつくしがみついて来た少年の華奢な肩を抱きしめスックと立ち上がった。そして、びっくりして見上げるエリーに左手を差し延べた。
「おいで」
「はい」
エリーは、嬉しそうに笑うと、彼の人の手を借り立ち上がった。そして、彼の人に手を引かれるままに歩を進める。
エリーの身体を包むのは、森の王がしていたマントであった。その下は勿論裸で、エリーの内股から踵に掛けて、一筋の跡が付いていた。
エリーは、ろくに足元を見もせずに、彼の人の逞しい肩先だけを見詰めて歩いている。
彼の人の右手に持たれているのが、エリーの衣服と子供用の弓矢。靴は、エリーの左手がぶら下げていた。
普段、閉ざされているその道が、王の為にと道を開ける。草木が左右に分かれ、通り過ぎたら又、閉じた。そして着いた所は、森の王の離宮の一つ。
見た事もないような、とても美しい宮殿であった。森の王と想いを交わす前のエリーだったら、きっと大はしゃぎしていたに違いない。しかし、今のエリーにとっては、はしゃぐようなものではなかった。この宮殿よりも何万倍も美しい森の王と出会い、肌を重ね想いを交わしたのである。その感動や喜びをしのぐもの等、もはや、この世には存在しない。
エリーは、その、きらびやかな内装に目を奪われる事もなく、彼の人が導くままに歩いた。
「殿。お帰りなさいませ」
気配さえ感じる事もなく、いきなり声を掛けられ、びっくりして森の王にしがみつき目を向ければ、一人の美しい若者が
コウベ
、恭しく頭を垂れていた。
「ああ。キリアンだ」
「キリ…アン?」
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