~緑の章~

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 呼吸する事さえ苦しい程に激しく抱いて貰うのも、あやすように優しく抱いて貰うのも良い。  今のエリーには、緑の殿の居ない生活なんて、考えられない。だから、彼の人と契ってからのこの五年、雨期が大っ嫌いになった。  森の中で雨が降るのは構わない。寧ろ、大喜びの事実だったが、行く前から雨が降っていたら、森には入れないのだ。何日も降り続ければ、何日も彼に会えない。だから、朝から雨が降っている日は、エリーに元気がない。 「はぁ。今日も雨」  エルンスト・カーライル十五歳。美しいまま成長した少年は、天を睨み付けガーックリと肩を落とした。 「何、溜め息吐いてんだよ」 「美少年溜め息の図って、何処ぞのお貴族様の喜ぶ構図だぜ」 「ムカッ! てめ~らに何が解るっ!」  緑の殿の前では慎ましいのだが、友人諸氏の前では相変わらず言葉が悪い。  エリーは、幼友達にがなり付けると合羽を被り、雨の降りしきる外に飛び出して行った。 「あ、おい、エリー!」 「一緒に帰ろうぜっ!」  慌てて追い掛けて来る幼馴染み達。  十五歳の男の子。らしくじゃれているのだが、エリーには、全然元気がない。もう今日で一週間も雨が降り続いている。つまり、一週間もあの人と会っていない。 「ぐすっ」  右手に見える、こんもりと繁った森。このまま、森に駆け込んで行きたい。 「だ~もぉっ! 雨なんか嫌いだっ! ばかっ」 「なっ何叫んでんだよ」 「あ~びっくりした」 「うっせぇやっっ」 「!? お~いっ!」 「ほぇ?」 「あ~っ! カールっ」 「あ~っ」  声と共に駆け寄って来たのは、エリーの家のお隣りのお兄ちゃんカール。二つ年上の十七歳。  彼は騎士になると言って、二年前に王都へ行き、二年振りで故郷のレイク村に帰って来た。 「ヒュ~。かっこい~じゃん」 「へーへーへー」 「何だ何だ」 「かっきぃ」 「相変わらず、ゴロゴロじゃれてんだな、お前等」 「ほっとけ」 「ますます美人になったんでないの?」 「ムッカー!! 死んじまえっ! アホッ!」 「ありゃりゃ。あ~ゆ~トコは変わらんね」 「最近、特に酷いよな」 「うんうん」  プンプン怒って先に行ってしまったエリーは、この一~二年、自分の容姿に付いて何ぞ言われると、これ迄以上に激しく怒るようになった。
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