~緑の章~

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 キリアンは言いたい事だけ言って退場。 「殿ぉ」  エリーが涙を零す。  少年が貰った木の実と花は、緑の殿の寝所に飾られていた。  火の妖精王は、エリーを正式に紹介して貰ってないので、エリーが沐浴中に訪ねて来て、緑の殿を浄化の炎で清め去って行ったそうだ。 ~コンコン~  突然のノック。エリーは慌てて目許を拭い、返事をした。 「はい」 「失礼します」  入って来たのはキリアンで、彼はエリーの朝食を持って来た。 「全部食べろとは申しません。少しでも良いのでお召し上がり下さい。その後は、殿の隣りに潜り込んでお休み下さい」 「無理だよぉ。殿は凄い熱を出していて、苦しそうに喘いでいるんだもん」  ぽろりと、エリーの双眸から涙が零れ落ちた。 「お熱は、火の殿に浄化して貰ったせいです」 「でもぉ。くっすん」 「ご心配は要りませんよ。火の殿に浄化して貰ったのに熱を出さない方が問題です」 「ぐすっ。そうなの?」 「ライトアルフは嘘が吐けません」 「えっく。そうだったね。解った。軽く食事を摂ったら殿の隣りに潜り込むよ」 「そうなさって下さい。火の殿の話によれば、十日は眠り続けるそうですから」 「十日もっ?」 「魔王と一対一で大太刀を振り回されておられたのですから、致し方ないですね」 「そう。解った」  それから十日。緑の殿が伏せっていたこの十日間、しとつく雨が止まなかった。丸で、緑の殿が寝込んでいるのを悲しんでいるかのようだ。  その雨が、いきなり止んだ。何だろうと思ったら、殿の唇から低い声が零れ落ち、瞼が震えた。 「んっ」 「あっ。殿っ、殿?」 「……ああ。良く寝た」 「もぉっ。くすっ。お早うございます」 「お早う」  緑の君が目覚めると同時に、厚く立ち込めていた雨雲が割れて晴れ渡り、大きな虹を作った。明るい陽差しが部屋の中を明るく照らし、小鳥達の歌声も聞こえて来た。ついさっき迄とは正反対の、素晴らしいお天気となっいる。  後になって教えて貰った事だが、緑の君が伏せっている間、ずっと雨が降っていたのは、水の妖精王によるものだったらしい。つまり、人間を森に入れたくなくて、それで降り続けていたそうだ。  殿の手が、心配そうに顔を覗き込んでいるエリーの頬に触れ、エリーはそのまま上体を倒し殿へ口付けた。
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