~緑の章~

125/163
前へ
/166ページ
次へ
 一つは、動植物達との自由な会話。  エリーは唯の人間だ。唯の人間である以上、魔法や何かは関係ない。しかし、その唯の人間は緑の妖精王の愛人で、時として今回のように一人になってしまう。そこで、少しでも慰めになればと思ってそうしてやった。  ま、元が森の民だから、動物達の言葉は本能的に判っていたようだが、今はもう、ちゃんとした言葉でやり取り出来る。  次に、森の外への自由な出入りを許可した。  幼い恋人は人間である。両親も弟もまだ健在だ。なのに、その全てを恋人から奪う事は出来なかった。  共に在れればそんな必要はあるまいが、一人残されれば、家族も恋しくなろう。緑の里に居るアルフ達は、快くエリーを迎え入れてくれたが、家族として迎えてくれた訳ではない。無論、友人とも違う。王の愛人として迎え入れたのだ。だから、王の愛人として扱われ、言葉を代えると、至れり尽くせりの毎日を送れるのだが、皆、当然と距離を作ってしまう。それでは、淋しがり屋のこの子には辛かろう。彼等に、悪気がないのも併せて知っているから余計に、内に秘めてしょげるに違いない。  それが見えたから、心配した緑の殿が、里帰りを許してやった。戻れば迎えに行くからと付け加え、許可した。 「う~ん…」  エリーは、一ヶ月近くの間、宮殿で過ごした。  本人、何とかして浮上しようと頑張っていたのだが、彼の人のない淋しさを紛らせる術を見付け出せず、部屋からも出ようとしなかった。緑の里に居るライトアルフ達は皆、優しくしてくれるし、大切にもしてくれるのだが、よそよそしくて、何か、その分が余計に悲しく思ってしまう。  ま、彼等は、誠心誠意尽くしてくれているし、悪気がないのも解るけど、解るからこそ文句も付けられないのだが、それでも悲しく思ってしまう自分が許せない。  エリーは、お昼も食べられず、部屋でブスブスと一人で燻り、ベッドの上でゴロゴロしていたのだが、やにわに起き上がり、パフッと枕を投げ付けた。そして、パパパッと着替えてしまった。  エリーが身に纏ったのは、緑の殿が、里帰り用にと贈ってくれた、村の若衆の着物である。布は仙境で織られた、羽のように軽くて鋼より頑丈な代物だったが、色合いもデザインも、村の若衆が着ている物と変わらない。  エリーは、長い髪を一つに束ねると部屋を出た。 「?! エルンスト様」
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加