~緑の章~

126/163
前へ
/166ページ
次へ
「やぁ、キリアン」  殿のお供には選ばれなかったが、彼は四大霊力を操れる親衛隊のメンツである。若いが、実力はあるのだ。だから、大切な恋人の世話係を申し付けた。そのキリアンが、エリーの気配の変化で足早にやって来た。 「どちらへ?」 「村」 「え”」 「今日から収穫祭だよ。ちょっと行って、元気を補充して来る」 「ふぅっ。では、お供させて頂きます」 「え? でも。わぁっ」 「あっ、済みません。驚かせる気はなかったのですが」  キリアンが、目の前でポンッと姿を変えた。 「………キリアンって、鳥さんだったの?」 「これは、唯の姿変えの魔法です」 「あ~そぉ。はぁっ。びっくりした」  美しいアルフだったキリアンが、今、猛々しい鷹に姿を変えている。鷹になったキリアンは、バササッと翼をはためかせ、エリーの左肩に乗った。 「お邪魔かとは思いますが」 「大丈夫だよ。くすっ」 「何ですか?」 「皆そうなのかな」 「何がでしょうか」 「殿もそう。そして、今、キリアンもそう。色や形をどんなに変えても、その目だけは変わらない。殿も、人間の若者してた時、少しも変わらず優しい目をしていたよ。そして、キリアンもそう。ちゃんと鷹の目なのに、やっぱりキリアンだって判っちゃうもん。いつもと同じ優しい光りを宿しているよ」 「有り難うございます」 「さ~て、行こっと」  そう呟いて歩を出したら、栗鼠のリーの声が追い駆けて来た。 ”エルンスト様ぁ~!” 「ん?」 ”私を置いて行くとは何事ですかっ! どいてよ、キリアンっ! そこは僕の指定席だっ!” 「お前が付いて来ても、いざと言う時、何の役にも立たない」 ”ムッカ~っ! 何だい何だいっ! 偉そうに! どけ~っ!!” 「あ~もぉ。リー」 ”エルンスト様ぁ” 「今日は右で我慢おしよ。連れてくから」 ”………はい。今日だけ譲ってやるよっ!” 「そいつはどうも」 ”ベーっっ”  ともあれ、リーを右肩に乗せ、村を目指す。  エリーが走る。子鹿のように軽やかに………。  キリアンは、宮殿の外に出ると上空に舞い上がり、旋回しながらエリーの後を追った。  リーはいつものようにエリーの髪にしがみつき、振り落とされないようにと必死。  そして、森を出た。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加