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「やぁ、キリアン」
殿のお供には選ばれなかったが、彼は四大霊力を操れる親衛隊のメンツである。若いが、実力はあるのだ。だから、大切な恋人の世話係を申し付けた。そのキリアンが、エリーの気配の変化で足早にやって来た。
「どちらへ?」
「村」
「え”」
「今日から収穫祭だよ。ちょっと行って、元気を補充して来る」
「ふぅっ。では、お供させて頂きます」
「え? でも。わぁっ」
「あっ、済みません。驚かせる気はなかったのですが」
キリアンが、目の前でポンッと姿を変えた。
「………キリアンって、鳥さんだったの?」
「これは、唯の姿変えの魔法です」
「あ~そぉ。はぁっ。びっくりした」
美しいアルフだったキリアンが、今、猛々しい鷹に姿を変えている。鷹になったキリアンは、バササッと翼をはためかせ、エリーの左肩に乗った。
「お邪魔かとは思いますが」
「大丈夫だよ。くすっ」
「何ですか?」
「皆そうなのかな」
「何がでしょうか」
「殿もそう。そして、今、キリアンもそう。色や形をどんなに変えても、その目だけは変わらない。殿も、人間の若者してた時、少しも変わらず優しい目をしていたよ。そして、キリアンもそう。ちゃんと鷹の目なのに、やっぱりキリアンだって判っちゃうもん。いつもと同じ優しい光りを宿しているよ」
「有り難うございます」
「さ~て、行こっと」
そう呟いて歩を出したら、栗鼠のリーの声が追い駆けて来た。
”エルンスト様ぁ~!”
「ん?」
”私を置いて行くとは何事ですかっ! どいてよ、キリアンっ! そこは僕の指定席だっ!”
「お前が付いて来ても、いざと言う時、何の役にも立たない」
”ムッカ~っ! 何だい何だいっ! 偉そうに! どけ~っ!!”
「あ~もぉ。リー」
”エルンスト様ぁ”
「今日は右で我慢おしよ。連れてくから」
”………はい。今日だけ譲ってやるよっ!”
「そいつはどうも」
”ベーっっ”
ともあれ、リーを右肩に乗せ、村を目指す。
エリーが走る。子鹿のように軽やかに………。
キリアンは、宮殿の外に出ると上空に舞い上がり、旋回しながらエリーの後を追った。
リーはいつものようにエリーの髪にしがみつき、振り落とされないようにと必死。
そして、森を出た。
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