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「はぁはぁはぁはぁ。何か、凄く久し振りに走ったなぁ。ぜーぜー」
森から出るなり両膝に手を当てて、ぜーぜー。しかし、直ぐに普通の呼吸に戻っていた。
上空を旋回していたキリアンが、エリーの左肩に舞い降りる。
「戦の後だからちょっと心配だったけれど、結構、大きな祭りになりそうだね」
「さようですね」
「人間って逞しいなぁ。と、人事のように言ってはならない。僕も、その逞しい人間」
「くすす」
答えていたのはキリアン。
人の波に紛れて歩を進めていたのだが、ふっと一軒の家が視界に入って来た。
「いかが致しました?」
いきなり立ち止まるもので、キリアンが尋ねた。
「うん。ちょっと」
キリアンの問い掛けに曖昧に答え、実家に向けていた足を今目に映った家に向ける。
その家に、緑の殿が住んでいたのだ。祝言を上げてからは、エリーも一緒に暮らしていた。
確か今は、ユーラが一人で住んでいる筈だ。白い魔法使いの長、赤の谷のリムターの子をお腹に宿し、一人で生活している。
お喋り好きの小鳥達の話しで聞いた事だったが、収集の付けようがないくらいな大騒ぎになったらしい。勝手に行儀見習だと思い込んだ方が悪いと思うのだが、多勢に無勢である。いくら、お嫁に行くと言って家を出たと言っても、村の大人達は、ユーラを尻の軽い女だと言った。ま、最終的には最長老が出て来て、赤の谷殿としか関係を持っていないのだから、尻軽女とは違うと騒ぎ立てる村人を怒鳴り付けて収めたらしいが、ユーラは勘当されてしまい、頼る相手もなく、それでも健気に生きていた。
「よいしょっと。はぁ。もう少しだぞ…」
大分目立つようになったお腹を摩りつつ、ユーラは重たい水桶を手に持った。
励ましてくれるのは、村長の奥さんと、魔法使いさんが残してくれた、お腹の中の赤ちゃん。もし、この子が居なかったら、リムターが死んだ時に後を追っていたろう。
ユーラは、何度も休み休み、水桶を運んだ。その水桶の柄に、エリーが手を掛けた。
「えっ?」
「こんにちわ」
「エリー? や~だ~。どうしたのよ」
「ちょっと遊びに来た」
「そうなの? あ」
「良いよ。俺が持つ」
「有り難う。えへ。何か助かっちゃったな」
「大分、大きくなったね」
「うん。年明け早々が予定日だから、今から色々と大変なのよ」
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