~緑の章~

128/163
前へ
/166ページ
次へ
「ふ~ん。コレは中?」 「うん。お願い」 「どら。よっと。何コレ。ユーラ一人でやったのか?」 「うん。そうだよ。誰も手伝ってくれないし。ま、アテになんかしてないけどさ。ともあれ、ど~ぞ。お菓子作る余裕なくってお茶受けないけど、お茶くらい入れるわよ」  そう言ってエリーを中に促したユーラが、そこに居た一人の魔法使いの姿にどっきりした。 「魔法使いさんっ」 「ぇ? あ、お帰りなさい。お留守だったので、待たせて頂きました」 「あ、お弟子さんか。立ち姿がそっくりだったんでびっくりしちゃった。お弟子さんの方が背が高いのにね。入って入って」 「あ、うん」  エリーを中に通す。 「これは、エレンスト様」  リムターの最後の弟子、赤の谷を継承したクールが、エリーの姿を認識するなり丁寧に頭を下げた。 「こんにちわ」  エリーは恐縮して、ペコッと頭を下げる。 「どうしたのですか? 今日は」 「退屈だったので、遊びに来ちゃいました」 「ああ。緑の君は、今、お留守でしたね」 「知ってるんですか?」 「長の下には通達があります」 「へぇ~」 「ん? その肩のは…。初めまして」  そう言ってクールが頭を下げたのは、エリーの左肩に鎮座していた鷹だった。 「赤の谷を継承致しましたクールと申します」 「誰に挨拶してんのよ。早く座りなさいな」  お茶の用意をしていたユーラが、エリーとクールに声を掛けた。しかし、その直後に鷹が答える。 「初めまして、赤の谷殿」 「えっ? その鷹、喋るのっ」 「………ちょっちょっとねっ」 「少々の事じゃ動じなくなった自分が怖いわ。はい。君にはコレを上げるわね」  テーブルの上にお茶を出し、リーに手渡したのは胡桃。 「よいしょっと。こんなにお客さん来た事ないから嬉しいわ。お茶受けくらい、こしらえておくんだった」 「………ユーラ」  おきゃんな村の娘は、もう、母の表情をしている。 「強くなったね」 「え? くすす。だって私、お母さんだもん」  事もなげにあっさりそう言い切れるのが、母の強さか………。 「………ユーラさん」 「はい? ”さん”なんて要らないわよ」 「………。赤の谷にいらっしゃいませんか? お留守の間少し見せて頂きましたが、この調子じゃ冬を越せませんよ?」
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加