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「う~ん。ちょっと焦ってたりするのも事実だけどね。去年の冬は楽だったからさ。そのつもりでタカを括ってたらとんでもない話しでさぁ。魔法使いさん、結構色んな事、知らない間にやっててくれてたんだね。今更ながらに感心しちゃうよ」
遠くをユーラが見詰めた。
「ならば是非、いらして下さい。貴方は、私の師匠であり育ての親でもあるリムターのお子をみもごっておられる。このままにはしておけません」
「………ヨロめいちゃうくらい有り難いお話だけど、止めておきます」
「何故ですか? これから益々寒くなります。身重の身体には良い事ありません」
「解ってるけど………私、この村から離れる気ないから」
「けれど、それでわ」
「私ね、この村で魔法使いさんに出会って、ほんの九ヶ月だけど一緒にくらしたの。魔法使いさんが死んじゃって、一緒に暮らしていた家は消えてしまったけど、思い出は残ってるの。それが私の中で普通にならない限り、私、この村から離れられない。私まだ、魔法使いさんを愛してるから」
断定されて、クールがうなだれた。
「………。参るなぁ、もぉ。あんな我が儘な奴の何処が良いんですか」
「ぜ~んぶ」
「い”」
ユーラの爆弾発言で、クールが固まった。
「全部だよ。ちょっと抜けてるトコも、いきなり甘えて擦り寄って来るトコも好きよ」
「………擦り寄る。あのお師匠がぁ?」
びっくり眼のクールに続ける。
「うん。ごろごろって自分で言って、膝に擦り寄ってたよ」
「想像したくない怖い話だ」
「くすす。ま、知らないのも無理ないと思うけど、二人切りの時はそうだったよ。私、ちゃんと覚えてるもん。私、何も忘れてない。あの人の声も、目も、肩も指先も忘れてない。ちゃんとこの子に話してやるんだもん」
ユーラの目許に涙が浮かび、大きくなったお腹を撫でた。
「ふう。羨ましい話しです。私も折りを見てお手伝いに参りますから、出来るところからやって下さい」
「ええ。有り難う。えっ?」
「エルンスト様」
ふっと気付けばエリーがポロポロと、貰い泣きしていた。思わず、一同びっくし。
「どうしたのよ、エリー?」
「うっうっうっ。ふぇ~ん」
「きゃあ。ちょっとエリーってば」
エリーは顔を覆い、本格的に泣き出してしまった。
クールはびっくりして声が出せず、ユーラはあたふた。
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