~緑の章~

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 と、同じくあたふたしていたキリアンが、鷹に化けていたのにアルフの姿に戻ってしまった。 「エルンスト様。何がそんなに悲しいのですかっ」  そう言ったキリアンも目を潤ませていたりするのだが、これは、ライトアルフである彼だからこその現象だ。ライトアルフである身には、エリーの素直さ故の悲しみが、思いっ切り感じられてしまう。 「エルンスト様。そんなに泣かないで下さいっ。私も悲しくなってしまいます。くっすん」 ”何一緒に泣いてんだよ。エルンスト様、エルンスト様?” 「ムカッ。お前に何が解るっ。栗鼠の分際で」 ”煩いやいっ。人の指定席を横取りしといて態度デカイんだから” 「何だとっ」 ”何だよっ” 「………ぐすっ」 「はっ! エルンスト様っっ。そんな改めて泣かなくってもっっ。この娘の事なら大丈夫ですよ。風となった前の赤の谷殿が、相当強い想いを残しているので、何があろうとも決して不幸にはなりませんっ。エルンスト様ぁ」  ライトアルフが狼狽する・の図。 「えっえっ、今のっ、絶対っ」 「はい。ライトアルフは嘘を吐けません。絶対です」 「ひっくえっくはーっ」  エリーが、盛大に零した涙を自分で拭い取り、大きく息を吐いた。 「ほ~っっ。大丈夫ですか?」 「うん。何か、グサッと来ちゃったよ。しくしく、ぐすぐす」 「ぜ~っっ」 「ぐすぐす。ねぇキリアン」 「はい。何でしょう」 「どうしてキリアンも一緒に泣いてくれた訳?」 「どうし………。それは、私が人間ではなくライトアルフだったからです」 「………。解らな~い」 「殿がお戻りになられましたら、お尋ね下さい。これは、私でなくとも同じです。殿とて、例外ではありません。尤も、あの方は、我々のように一緒に泣く事はありませんが、同じ胸の痛みを感じていましょう」 「解らないぃっっ」 「殿に、根掘り葉掘り問い詰めて下さい。んっ? 誰か来る」  言い終わる頃にはキリアンは鷹に姿を変えてしまった。 「便利だなぁ~」  鷹に戻ったキリアンが左肩に落ち着き、エリーがしみじみぼやいたら、本当にドアを叩かれた。 「……あっ。はいっ!」  目の前で展開されていた事に乗り損ねたユーラが、はっとして出て行った。  それは、大霊祭が始まるからいらっしゃいよと言う、村長の奥さんのお誘いだった。
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