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「キャーキャー! 旦那さん、ソレ、何とかして下さいよっっ」
「カエルくらいで悲鳴なんか上げるな」
「そっ、そうおっしゃいますがぁ。キャア」
「やれやれ」
女の子の悲鳴が頭をシェイクするので、エリー一味が残して行ったカエル共を森に返す。
「もう少し、何とかならんモンかね」
「それは、私がお願いしたい事ですっ」
「何か、他にやったのかね」
「他にってっっ。今朝、卵、全部割っちゃったんですよっ、坊ちゃん」
「全部」
「そうです」
「頭が痛い」
「もぉっ。旦那さんっ」
ガーックリと肩を落とした村長は、長男の益々酷くなる悪戯を憂いて溜め息等を吐いてみました。
「ずっ、随分と元気な坊やですねっっ」
「元気良過ぎて困っていますよ」
「はははっ」
旅人の笑いが引きつる。彼は、しっかり鍵を掛けて寝るぞと、心ひそかに決心するのであった。
そんなある日の事である。
十歳の誕生日を昨日迎えたエリーは、父に、子供用の物だったが、弓矢を贈って貰った。
腕白小僧も森の民。
森の掟は知っている。だから、背に背負って駆け回ってはいるが、それで動物を狙ったりはしなかった。
狩りは大人の仕事。必要以上は傷付けない。エリーの矢が射るのは木の実で、そうやって、弓の腕を磨くのだ。
エリーは、殊更嬉しそうに森の奥へ入って行った。背中の弓矢が少し大人になった自分を象徴していて、何やら嬉しい。
エリーは、高い枝になっていた木の実目掛けて矢を放った。が、そう簡単に当たる訳がない。それでもめげずに矢を射る。
「あっっ!!」
エリーの放った矢が大きく逸れて、老木に突き刺さった。
エリーは、短い悲鳴を上げるとその木の側に駆け寄り、慌てて矢を引き抜いた。
「どうしよう。こんなにえぐっちゃってっっ。ぐすっ。痛いよな、お前。ごめんよ。わざとじゃないんだ」
エリーの目にあっと言う間に涙が溜まり、自分が傷付けた所を手で摩りつつ泣き出してしまった。
悪戯ボーズのガキ大将。
本当は、唯、優しいだけの少年。
”綺麗だね”とか、”可愛いね”とか、旅人は必ず言うもんで、それでむきになって乱暴な言葉を遣い、悪戯しまくっていたが、本当はその容姿と同じくとても優しくて美しい心を持っていた。
「えっえっ痛いよねっえくえくごめんよ。ふぇーん」
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