アダルトコーナー

2/2
前へ
/8ページ
次へ
憂鬱だった。返却ポストに山積みになったDVD、自意識過剰なクソみたいな従業員、時給700円の賃金。せいぜい手取り九万円の生活。おまけに、今は午前2時。頭の悪そうな若いカップルが親しげに身を寄せあい、僕の前を通り過ぎる。一瞬女が僕に視線を送る。僅かなセックスシンボルを匂わせる仕草で。 僕は溜め息を付き、返却されたDVDをジャンル毎に仕分けする。洋画新作、邦画新作、旧作アクション、アダルト…。レンタルビデオ店で働き始めて半年が経った。楽しい事なんか何もなかった。恋人は3ヶ月前に僕の下を去った。いい女だった。僕にはもったいないくらいの。だから、彼女は他の男の下へ行ったのだ。僕を捨てて。 DVDの仕分けを終え、僕はアダルトコーナーへ向かった。返却されたDVDをケースに戻さなければならない。レンタルビデオ店で、アダルトコーナーはほんの一画に過ぎないが、その売上は総売上の実に四割を占めていた。必然的に、返却量も多くなる。 アダルトコーナーには二人の中年男性と、金髪の若い男が一人、それから、先ほどの若いカップルがいた。時折、アダルトコーナーでビデオを物色するカップルがいる。実に羨ましい。僕は軽い嫉妬を覚えながら、返却作業を始めた。 自慢だけど、僕は返却作業が速い。特に、アダルトの返却なら店長や副店長にだって負けない。それも一重に、皆が嫌がるアダルトの返却作業を、店長の顔色ばかり伺う副店長に押し付けられたせいだった。 僕は手に抱えたDVDをどんどん片付けていく。丁度、二十数枚をケースに戻し、抱えていたDVDの半分近くを片付けた時だった。もの凄い音がした。アダルトコーナーにいた客達の視線が泳いだ。皆、音の原因を探っているようだった。音の一瞬後、僕の真横にあった什器が倒れてきた。カップルの女が悲鳴を上げた。棚がはずれ、陳列されていたDVDケースもろとも床に落ちる。金属音が鳴る。倒れた什器はドミノ式に次の什器にもたれかかり、それも倒した。何が起こったのかわからなかった。僕は抱えていたDVDを床に置き、最初倒れた什器の方へ歩いた。金髪の若い男が立っていた。何故か、涙を浮かべて。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加