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「大分落ち着いた?」僕は金髪の男に声をかけた。金髪の男は水の入ったコップを持ったまま、気が抜けたようにソファーに座っていた。もう片方の手には、何かの呪いのようにアダルトのDVDを握っていた。
「ああ、ありがとう」金髪の男は虚ろな瞳をしていた。
「本当に、大丈夫?」
「ああ」金髪の男はグラスをテーブルに置き、COOLをポケットから取り出した「煙草、吸っていいか?」
「構わないよ。僕も吸うから。けど、今灰皿がないんだよ。ちょっと事情があってね。これでも使ってよ」僕はコーヒーの空缶を手渡す。「君、名前は?」
金髪の男は煙草に火をつける。「ケンジだ」と彼は言った。
「ケンジ君と呼べばいい?」
「呼び捨てでいーよ。歳、同じくらいだろ?」
「ケンジは何歳?」
「21」
「僕は23だ」と僕は言った。「それにしても、どうしてあんな事を? 什器を倒したの、君だろ?」
「ああ、ついカッとなっちまって。悪かったな」
「別に僕の店じゃないいいさ。あんな店が不利益を被ったって、誰も困ったりしないさ」
「あんたは店員さん?」
「まあね。バイトだけど。それより、どうしてあんな事を?」
「こいつのせいさ」ケンジは持っていたアダルトDVDを、僕に向かって投げた。
「これ?」僕は受け取ったDVDをまじまじと見つめる。「これが、どうしたの?」
「その女、可愛いだろ?」
「確かに可愛い」
「俺の女だ」
「恋人はAV女優?」
「…知らなかったんだよ」ケンジは顔を歪めて言った。見かけによらず、割りと繊細なハートを持っているのかもしれない。
「これを見つけて、初めて気がついたんだ?」
ケンジは頷く。
「それで、混乱して什器を蹴飛ばした訳だ?」
「そういうこった」ケンジはソファーに身を沈め、溜め息をついた。「それにしても、いいソファーだ」
「ありがとう」と僕は笑った。「それにしても、パッケージの写真と中身はまるで別人かもしれないよ? これはひょっとしたら、君の恋人に似た誰かなのかもしれない」
「その可能性は、確かにある」
「観てみる?」僕の提案にしばらくケンジは黙っていたが、やがて二本目の煙草に火をつけると、頷いた。
「不安かい?」
「まあね」ケンジは苦笑いを浮かべる。
「3104丁目のDANCEHALLだよ」と僕は言った。
「なんだそりゃ?」
「何か、楽しい事を考えるんだ」
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