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俺は見ず知らずの男の家にいる。DVDをセットして、俺の恋人のセックスを見ず知らずの男の前で晒そうとしている。
煙草はもう三本目だ。背中の汗でシャツが張り付く。
「始めるぞ」俺は言い、男は頷いた。
アダルト会社の宣伝や、他の作品のダイジェストが短く入る。俺は三本目の吸い殻を灰皿代わりの空き缶に入れ、四本目の煙草に火をつけた。
女が登場した。色々なアングルから彼女の体が映される。男が言ったように、この女は俺の恋人に似た女なんだろうか? それとも、やはり俺の恋人なんだろうか? カメラが彼女の顔を捉えた。
似ている。似すぎている。
シーンは進む。監督だか、男優だか知らないが、彼らが彼女に質問をする。初体験は何歳? 場所は? どんな感じだった? 今彼氏は? …彼女は時に恥じらいながら、質問に応えていく。声は少しエコーがかかっていて、聞き慣れた恋人の声より若干高く聞こえる。いや、気のせいかもしれない。それは紛れもなく恋人の声なのかもしれない。
やがてシーンはベッドに移る。彼女は男優と口づけを交わす。舌を絡ませて。まるで恋人同士の様に。
男優はゆっくりと彼女の乳房を撫でる。始めはゆっくりと、徐々に激しく。彼女は僅かに息が荒くなっていく。時折、体をぴくりと震わせる。
俺はもう何も考えてはいなかった。ただ、目の前で行われている出来事を眺めていた。まるで現実味がなかった。ブラウン管を通しているからだろうか。それとも、俺の脳が理解を拒否しているのか。
画面の中で、彼女は裸だった。足を広げ、男優に身を捧げていた。彼女は俺が見たことのない表情で悶えていた。あれが俺の恋人なのか? 見れば見るほど分からなくなってくる。リカ。他人。女。獣。天使。君は誰だ?
男優が射精したところで、俺は停止を押した。電源を切ってしまうと、まるで何もなかったかのような真っ暗な画面になった。俺はほとんど吸わずに燃え尽きた煙草を空き缶に捨てると、五本目の煙草に火をつけた。
「どうだった?」
男が言い、俺は黙った。彼は俺の言葉を忍耐強く待った。気を落ち着かせなければならない。ゆっくりと煙草を味わい、吸い終えると、俺はようやく質問に応えた。
「確信は持てない。別人みてえだ。でも、やはり恋人だと思う。でも、別の誰かのような気もする」
「チェリオメアリーみたいだ」
男が言い、俺は六本目の煙草に火をつけた。
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