【 契 約 】

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「どんな物件でもいいですから、格安物件をお願いしますよ!」 田舎に住んでいた者が都会に住もうとする時、誰しもが一度はそう言うに違いない。 今年、大学に入学予定の新垣陸(にいがき りく)も例に漏れず、近隣の不動産という不動産を回った。 仕送りに頼る生活をするに当たり、やはり押さえたいのは住居費であり、固定出費の『家賃』である。 近隣にある不動産でこれが最後の一軒だった。 ここで、希望価格に見合う物件が見つからなければ今までの不動産からの候補物件からまた洗い直すことになる。 陸は緊張と少々の期待を持った眼差しで目の前の不動産の主人を見た。 「……どうしても、というのでしたら…。 まぁ なくはないですが――」 主人は言葉を濁し、陸の顔を窺うようにして言った。 「あ、あるんですね!」 主人の言葉に陸はすぐに食いつき、縋るような目線で主人を見上げた。
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