俺の家≠心霊スポット

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俺は「助かった」と思った。ここからなら自室まで帰れるかもしれない。 夢魔に悩まされる日々の中、自室に辿りつく事が出来れば悪夢はもう見る事は無いのに、と漠然と感じていた。 恐怖はあったがチャンスがやってきたように思えたのだ。 そしてひたすら部屋に向かって走った。残り半分を切り、やっと終わると思った時、また足が動かなくなった。 「また無理だったか…」と抵抗を諦めると、引っ張られている事に気付いた。 中央のぽっかり空いた穴の方へずるずると仲間を欲しがるように。手摺の向こうには顔こそ見えないが黒い髪がちらりと覗いていた。 俺は泣き叫んで抵抗したが、力は強く、何の足しにもならない。 やがて手摺のところまで引きずられた俺は、大きく足を踏ん張ってみたがやはり意味は無かった。 踏ん張るのにも限界がきて、力を緩めかけた時、何処かの部屋の鍵が開くガチャという音を聞いた。 その瞬間力が弱まった気がして、家へと走っている時に目が覚めた。 これ以来、悪夢は見なくなった。 次の日手摺の下に足跡を見つけた。 その日同じ十階の住人が「昨夜子供がうるさかったからドアを開けて見てみたけど、気のせいだったみたい」と笑っていたが俺は笑えなかった。
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