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「涼しぃ~!」
森の中で両手を羽のように伸ばすルシフェル。
ここ、ネリスの森は背の高い木々で構成されており、この季節は枝葉が上手く重なって、森にはほとんど陽の光が届かない。その上、風通しも良い。
彼の服装とは正反対の環境だ。
「さて、マッドベアは一体どこだっと」
暑さから解放されたルシフェルは、独りで森を散策している。
「しっかし……勢いでここまで来ちゃったものの、こんな杖でどうやって戦おう?魔法は使えるけど、俺弱いからなぁ」
そう言って、ルシフェルは少し自分の軽率さを後悔した。
しばらく歩いていると、薄暗い森の中にいるせいか、ルシフェルの内側からじわじわと不安感が募ってくる。
「うーん、今思うとDランクはちょっとキツかったかなぁ。なんか……だんだんマッドベアを倒せる気がしなく──」
その不安感に負け、ルシフェルが弱気になった瞬間、
ドドドッと何かが勢いよくこちらに向かってくる音がした。
「ま、まさか……」
ルシフェルがおもむろに音のする方を見てみると、その音の正体はまさしくマッドベアだった。
「くっ、避けられない!やむを得ないか……!」
そう言って、両方の掌を突進してきているマッドベアの方に向ける。
「くらえっ!氷雪魔法・フリーズアロー!」
そう叫ぶと、その両手からは、連なった冷気が一直線にマッドベアに向かっていった。
狂ったような勢いで迫ってくるマッドベアは、それにも関わらずこちらに向かってくる。
やがて、激しく冷気とマッドベアが衝突した。
「やった……!」
それを手応えで確認したルシフェルは、冷気を繰り出しながら歓喜の声を漏らす。
「──って、えぇ!?」
しかし、その手応えも何かおかしい。マッドベアの止まった感覚がしないのだ。
ルシフェルの目に入ってきたのは、冷気を物ともせず、まだ猛烈にこちらに向かってきているマッドベアだった。
「そうだった!マッドベアの耐属性は『こお──ぐぁっ!」
マッドベアには「氷」は効かないと言おうとしたが、言い終わる前にルシフェルはマッドベアの突進を正面から食らい、吹き飛ばされて木に激突した。
「ぐっ……」
そのまま力なくその場に腰を下ろすルシフェル。
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