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妹は、弱い体だったが必死に生きていた。 汚い物にまみれた世界を見つめながら、必死に綺麗な花を咲かせたいと。 妹にとって、兄は憧れだった。 何でも出来る天才で、とても優しくて、暖かな人で、月のように美しい人だった。 兄の弱さも脆さも知らず、勝手な幻想を当てはめていたが、何にも縋れない少女にとっては、そんな利己的な思想が生きる支えになった。 あの不気味な医師は、別に譜代の医師でもないのに甲斐甲斐しく世話を見てくれた。 少し風邪をこじらせただけで、一晩付ききりで病状を看ていたこともある。 医師と兄の存在は、少女にとっての光だった。
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