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一方、クリスの恐怖は別にあった。
彼女にとって、死は別に恐ろしくなかった。
この世に生まれた時から母のエゴに、一族のエゴに押しつぶされ薬剤漬けになりながら生かされる彼女は、生まれながらに死んでいたのだから。
今更、死を恐れるのは何となく馬鹿馬鹿しく感じた。
彼女がそれ以上に恐れたのは、人の目だった。
心無い言葉や、不躾な眼差しになんど彼女が袖を濡らしたか、誰も考えなかった。
──どうせ、あんな娘なのだから
見え透いた薄汚い心、侮辱するような態度。
しかし、それに反論する勇気も彼女には無かった。
「お兄様は美しいのにね」
「本当に、ご兄妹なの?似てないにも程があるんじゃない?」
「片端者の癖に…」
酷い言葉の雨が、彼女の胸を突き刺していた。
彼女が心を許すのは、数少ない人物の中にはオディロン医師がいた。
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