アキとカエデ

2/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
  「…………………」   ―どうしよー?―   はっきり言ってカエデは困り果てていた。 何故か? 原因は目の前にいる人間にある。 正確には、目の前でうずくまって鳴咽を噛み殺そうと必死になっている人間に。   「………アキー。いい加減泣き止めよー。」   「……っ………ひっ………んっ……ふっ……っ…」   ―ダメだ、こりゃー。―   アキに声をかけてみたが、泣き止む様子は全くない。 カエデに背を向けているため表情はわからないが、きっと酷い顔をしているだろう。 カエデは一つ大きなため息をつき、核心に迫ってみた。   「そんなにヤなのかー?あいつがいなくなるのー?」   アキの肩がビクリと震えた。 そして頷いた。 カエデはまたため息をついた。   アキが誰を好きかなんて知っている。 アキのことなら、家族の次くらいにわかる自信がカエデにはある。 中学からの腐れ縁で、大学生になった今でも同じアパートに住んでいるくらいだ。 無論、部屋は別だが。   だからカエデはアキが今、何を思って泣き、何を必要としているのか、手に取るようにわかるのだ。 自分だって好きな相手を思って泣いたことくらいある。 その相手がアキだとは言えないが。 そしてアキが今必要としていること…。   カエデはズボンのポケットに手を入れ、握り締めた。   目の前にある背中を抱きしめてやりたいことも。 守ってやりたいことも。 慰めてやりたいことも。 笑わせてやりたいことも。 自分だけ見てほしいことも。   全て抑えてアキにこう言った。   「……じゃあねー。」   きっと今のアキには聞こえてもいないだろう。   今のアキは、カエデがしてやりたい全てのことを必要としていない。 ただ悲しみにくれていたいだけ。 きっとカエデがアキと同じ立場でもそうだろう。   カエデは今日1番の大きなため息をつき、ゆっくりとアキの部屋を出た。       **************   悲しみにくれて、体を小さく丸めて、鳴咽を噛み殺そうと必死になっている君。   何度話しかけたって、こちらを見ない。 今、自分を必要としていない。   だから全てを抑えて     君に背を向けた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!