八幕 伝之介の部屋~貧乏長屋

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  「おフサ、出かける前にひとつ用事を済ましておこう。早速出るが。いいか」  こくりと頷く。 「それからおサキさん。これに町を案内してやりたい故今日は子供たちの相手をしてやれぬが、その旨伝えておいてもらえるだろうか」 「あいよ。こんなことだからね、今日だけと言わず何日でも休んだらいいさ。また始められるようになったら声をかけておくれ」 「すまない。ではおフサ、行こうか」  今頷いたばかりのおフサが渋る顔をしていた。どうやらお先の持つ膳が気にかかるらしい。おサキがまた大きな声で笑う。 「落ち着いたら手伝ってもらうこともあるだろうけど今はいいよ。いいから早く大家に挨拶へ行ってきな!」  文字通り背中を押されて部屋を出る。 「強烈な方ですね」 「この界隈でも一番だな。なにか困ったことがあったら、私の次にはあの人を頼るといい。それより疲れてはいないか。どこか目に付かない場所へ行くか」 「お気遣いありがとうございます。ですがそれには及びません。ここで暮らしていくのだから、易々と音をあげるわけにもいきません」  頼もしい言葉を聞き、川沿いの通りに入った。川下へ行くに従い寂れていき、上流、町の賑わいに近くなるにつれ建物はしっかりしたものへなっていく。無論大家は上流に住んでいる。  
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