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「あの、町のことでしたらわざわざ案内していただかなくともあとで私ひとりで見て回れば済むことですから」
言われ、手を振って町並みを示した。まだ賑わいには遠いが段々と人は増えてきている。足早に道を急ぐ町人。大八車を押す商人。女の姿はどこにもない。おフサも気づいたようだ。
「単純に女の数自体が少ないというのもあるが、女だけで町を歩くというのはよした方がいい。世の中が物騒なうえに、女が少ないことがまた災いする。
「ですが私には――」
「約束を忘れたとは言わさない」
神通力があればなにが起きても凌ぐことはできるだろう。だがしかし堂々と町を出歩くようになれば、当然目立ってしまうし色々と問題も出てくる。自分が人の暮らしのあり方を変えてしまいかねないということに対する理解がおフサには足りない。
もしどうしても神通力が必要となる場合には必ず相談をするよう言ってある。その場合にも、けして許可を出すようなことはしないつもりだ。もし神通力でなければどうにもできないような事柄ならば、そもそもどうにかしてはいけないと思うからだ。
おフサを通じて人ならざる力を扱うことができるようになってしまった以上、その誓いだけはなにがあっても破るまいと決めた。それが、市井に獣を引き入れた者の務めだろう。
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